2010年5月17日月曜日

譲らざる者


この5月は、NHK-BSとWOWOWがそれぞれ
クリント・イーストウッドの映画特集を組み、
合計26本の出演・監督作品が放送される。
我が家では、放送解禁の『グラン・トリノ』をはじめ、
『ダーティハリー』シリーズ全5作、
『ファイヤーフォックス』のHD版などを録画した。

初監督作品の『恐怖のメロディー』や
『センチメンタル・アドベンチャー』、
あるいは『白い肌の異常な夜』や
『ペイルライダー』といったマニアックな作品、
逆にマニアが無かったことにしたがる『マディソン郡の橋』、
そしてなぜか『ミスティック・リバー』は抜け落ちているが、
イーストウッドの代表作は、おおよそカバーしている。

イーストウッドは、作品ごとにジャンルを変える監督で、
その意欲的な姿勢は巨匠と呼ぶにはあまりにも若々しい。
しかし、初めて主演した『荒野の用心棒』が34歳の年、
初めて監督した『恐怖のメロディー』が41歳の年と、
イーストウッドのデビューは決して早くない。
むしろ遅咲きで、作品のクオリティにおいても、
興行収入においても、最新作が最高傑作で、
成長が止まらないという希有な映画監督だ。
ちなみにイーストウッドは、
ゴダールと同じ1930年生まれ。
日本の映画監督でいえば、
山田洋次や大島渚らと同世代。
そして、ビートルズやプレスリーよりも、
上の世代なのである。まったく恐れ入る。

イーストウッドは、52歳の年に監督した
『ファイヤーフォックス』でSFXを本格導入したが、
必然性さえあれば、80歳を超えて3D映画をやると思う。
たとえば、人類唯一の月面着陸に成功したアポロ11号、
その船長だったアームストロング氏が唯一認めた公式の伝記
“First Man”の映画化権をイーストウッドは持っているので、
可能性は充分ある。

イーストウッドは自前の映画製作会社
マルパソ プロダクションを設立し、
制作スタッフを抱え込んでから監督業をスタートしている。
だから、ジャンルは幅広いけれど、
どの作品を観てもイーストウッドの個性が色濃い。
実際、拳による格闘シーンがフックから入るとか、
食べながらしゃべことを重要視しているとか、
ゆっくり動くリズムが印象的だとか、
ドキュメンタリータッチを多く使うとか、
マニアや批評家が指摘する映画的なポイントはいくつもある。
そして、僕が思うに、
イーストウッドは、監督した映画のなかで、
ほんど一つのことしか言っていない。
つまり、どの映画もテーマは同じ。

守るべきものは、どんな状況にあっても、
どんな手を使っても、自分の手で守る。

これである。
映画から人生を学ぶことは退廃的で不健康の極みだが、
僕は、人生で悩んだときは、
自分が何をやりたいかということは考えず、
何を守りたいかを基準に判断するようにしている。
人間、やりたいことや欲しいものは目移りするが、
譲れないものは案外、子供の頃から変わらないものである。


リチャード・シッケル 著
『クリント・イーストウッド
レトロスペクティヴ』
キネマ旬報社


『半魚人の逆襲』から『インビクタス』まで
クリント・イーストウッド公認ブックの日本版。
この春、世界同時刊行。






 フィリップ・K. ディック 著
『ライズ民間警察機構
テレポートされざる者・完全版』
創元SF文庫


断筆、欠落、改稿、絶筆…
呪われた作品というよりも
聖書が小説的であるのと同じ意味で
祝福された作品かもしれません。

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