2010年8月21日土曜日

Exodus -3

ABSOLUT BROOKLYN [1]











無造作に脱ぎ捨てた靴下のようなマンハッタンの、
つまさき部分にあたるミッドタウンを
東の端から西の端へと横切って、
イーストリバーの底をくぐってブルックリンに抜け、
ゆるやかに南下してゆく路線がLトレイン。
ニューヨーク州都市交通局(MTA)が運営する地下鉄で、
始発駅は8th Avenueである。
わたしがホームステイした家の最寄り駅は、
8th Avenueから数えて14番目、Myrtle-Wyckoff Avenues。
たぶん「マートル-ウィッコフ」と発音するような気がするが、
日本ではWyckoffを「ワイコフ」とも表記する。
遠いむかし、親に隠れて見た映画、
『さよならミス・ワイコフ』を思い出した。
そのころ、女性映画というふれこみは、
十代前期の少年にとって、ほとんどポルノと同義語だった。
だから、駅名の表示を見るたびに、
罪悪感をともなう臭気がよみがえる。

それはさておき、当然のことながら、
わたしは車内のアナウンスも聞きとれず、
最初のうちはあやうく何度も乗り過ごしそうになった。
その先はとたんに柄が悪くなるから気をつけろ、
と、ホームステイ先の友人から忠告されていたので、
プラットホームの光景をしっかり目に焼き付けた。
ふと、『ブルックリン最終出口』などの小説で読んだ、
1960年代〜1970年代のイメージがよみがえり、身構えた。
とはいえ、わたしにとってのブルックリンは、
映画『ブルックリン物語』が描いた1920年代、
映画『ブルックリン横丁』で見た1930年代、
そして、ジャッキー・ロビンソンが活躍した
1940年代後半から1950年代前半のイメージが根強い。
(つづく)


ヒューバート・セルビー・ジュニア
『ブルックリン最終出口』
河出書房新社


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『ブルックリン横丁』
エリア・カザン監督、1945年
ペギー・アン・ガーナー主演

『ブルックリン物語』
スタンリー・ドーネン監督、1978年
ジョージ・C・スコット主演

2010年8月14日土曜日

Exodus -2

Are you here to sightsee?(観光で来たのか?)

Yesと答えたものの、何か腑に落ちない。
アメリカ人の入国審査官は、わたしにパスポートを返し、
さっさと行けという表情だ。
水際で足止めをくうのはまっぴら御免だから、
うながされるままパスポートを仕舞う。
でも、この旅の目的が観光かどうか、
本当のところ自分だって判らないのだ。

世界最強クラスのパスポート。その信頼性は、YENより高いかもしれない。ただ、なぜ篆書体なのだろう? 紙幣もそうだ。これは秦の始皇帝が命じて作った書体。歴史と伝統はあるけれど、それは隣国の歴史である。できればオリジナル書体を。

今回の旅の目的。
日本国内の家族・友人・知人に向けてのリリースでは、
いちおうビジネスになっている。
「視察」「見学」「研修」という言葉は都合がいい。
もちろん、自分の店、
ピノキオブックスで売るための本を仕入れるつもりでいる。
予算は用意した。でも、帰りの荷物が重くなるのは具合が悪い。
たぶん多くて10冊、少なくて2、3冊になるだろう。
いずれにしても、観光客のおみやげ程度にちがいない。
洋酒を何本もかかえて帰宅した、
戦後昭和の海外旅行客にくらべれば、
本の数冊、タカが知れている。

ニューヨークで暮らす人たちとの交流をはかる。
これはあらかじめスケジュールに入っていた。
パックツアーじゃないかぎり、現地のツテを頼るので、
どうしたって言葉を交わす、何度か行動を共にする。
だからそれを、ビジネスにつながる人脈づくり、
などと呼ぶには値しない。
そんな耳ざわりのいいフレーズは、
コンサルにでもくれてやる。

こうやって書いてくると、
『バナナチップス・ラヴ』のヒロインを思い出す。
彼女も確かな目的があったわけではない。
なのに渡米して、しばしのあいだニューヨークに滞在する。

『バナナチップス・ラヴ』は、1991年10月から同年12月まで、
フジテレビ系列で放送されたテレビドラマ。
深夜番組枠であるにもかかわらず、
オール・ニューヨーク・ロケというバブルぶり。
演出は最近おさわがせの高城剛。
ヒロインには、これが初主演となる松雪泰子が起用された。
ちょうど『ダウンタウンのごっつええ感じ』が始まるころで、
こちらにもレギュラー出演していた。
その他、衣装はYoji Yamamotoで、
音楽は藤原ヒロシとDub Master Xが担当し、
テーマ曲は田島貴男ひきいるオリジナル・ラヴ、
『月の裏で会いましょう』だった。
劇中、ティモシー・リアリーが出てきたて、
おどろいた記憶がある、まだ地球にいたのか!と。
実際、放送の5年後に亡くなって、
願いどおり宇宙葬で星になったらしい。


『ユリシーズ』
著:ジェイムス・ジョイス
訳:柳瀬尚紀

少年時代のリアリーに
衝撃を与えた小説。
20世紀を代表する文学のひとつ。

自伝『フラッシュバックス』も
面白いけど、絶版で古本も高価。






Timothy Leary
You Can Be Anyone This Time Around
(Rykodisc,US)

参加ミュージシャンが豪華。

YouTube

2010年8月13日金曜日

Exodus -1

おしっこが出ない。

いや、より正しく言えば、出そうとはした、8時間くらい前、
キャビンアテンダントに「トイレはどこですか?」と聞いたのだ、
不慣れな英語で、Where's the restroom?と。
彼女は笑ってくれた、口元は。目元も笑っていたかは定かでない。
そして彼女は上に向けた手のひらで方向を示し、
わたしに踏み出すことをうながした。

一人目はコーカソイドのおじさんだった。
40代なかばくらい、靴を履かずにスポーツソックスで立っている。
旅慣れているのかいないのか、まったく判らない姿だ。
二人目はモンゴロイドのおばあさんだった。
中国語を喋りそうではあるが、
中国大陸に住んでいるようには見えない。
三人目は自宅を出てから今まで、
おしっこを出してない日本人のおっさんだった。
その三人目は1分と待つことができず、そそくさと席に戻り、
ふたたびまぶたを閉じることにした。

自宅のトイレから、アメリカのニューアーク空港のトイレまで、
期せずしてつながってしまった。いいのか悪いのか?
とりあえず、カラダには良くないだろう。
機内で寝てばかりいたこともあり、
東京の生活とニューヨークの生活がシームレスに連続した。
これが15日間にわたるニューヨーク旅行のスタートだ。
そして、今回の旅行で最初に口にしたWhere's the restroom?は、
最もひんぱんに使ったフレーズとなる。

英語フレーズ「これが言いたかったこれが言えなかった」大辞典
別冊宝島編集部(宝島社文庫)

ピノキオブックスが持っているのは業務用(私用)。
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「エクソダス+2」
ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズ
 (USMジャパン)


※歌詞の内容と
ブログの題名および内容に
特別な結びつきはありません。
たんなる連想(こじつけ)です。





 Youtube:EXODUS - Bob Marley