前回とりあげた豊田徹也の『珈琲時間』。
私が特に惹かれてしまったのは
中身のマンガよりも表紙、カバーイラスト。
大好きな吉野朔実に、タッチがちょっと似ているのです。
それもどちらかというとマンガではなく、
本や映画のレビューに添えるイラストのほう。
いうなれば、「ぶ〜け」をはずしたときの吉野朔実。
左は読書エッセイ『お母さんは「赤毛のアン」が大好き』の表紙、
右は映画鑑賞エッセイ『こんな映画が、』より抜粋。
興味をひかれた方は、ピノキオブックスには在庫がないので、
どうぞ新刊屋さんでお求めください。
吉野朔実にはいくつも傑作長編があり、
私も、ヒロインがアーティストによっていっとき心が救われる、
『ジュリエットの卵』が好きだったりしますが、
本当は短編がいちばん冴える作家、そんな気がします。
短編集『いたいけな瞳』をはじめ、
連作短編めいた『恋愛的瞬間』など、
より多くの人に読んでほしいシリーズがありますが、
正面から珈琲や喫茶を扱ったものはありません。
ただ、私が吉野朔実と珈琲で思い出すのが、
大好きなこのシーンです。
これは短編『天使の声』の一コマで、
ここだけ見るとコントみたいですし、
実際、吉野朔実らしいユーモア、
ミニシアターや名画座で上映される外国映画的なユーモアは、
いくつもちりばめられているのですが、
(たとえば「カセットテープの友釣り」とか)
基本的には身近な人の死を扱ったシリアスな作品です。
つまり「喪の仕事」がテーマで、
左耳が聴こえなくなった御曹司、
声が出なくなったオペラ歌手、
そして、彼氏につれなくされた女子高生が主要キャスト。
この女子高生が「水っぽいミルクで珈琲を飲みたくない」と
主張するので、上のようなシーンが生まれたわけです。
ブラック党の私にとっては、理解不能なこだわりなんですが、
この女の子のキャラクターをあらわす良いエピソードでした。
Let's Have a Caffee Break.
クール&ソフトボイスで知られたペギー・リーの名盤『ブラック・コーヒー』
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