2010年4月13日火曜日

童心回帰

2月の初め、このポスターを見て以来、ずうっと気になっていた世田谷文学館の『石井桃子展』。2月6日から4月11日まで、開催期間がほぼ2ヶ月もあると油断していたら、いつのまにかあと2週間となった4月4日の日曜日、ようやく重い腰をあげて、文学館に足を運びました。
好運にもその日は、開館記念日だったので、ふだん大人700円の入場料がフリー。気を良くしたまま、入場するなり売店へ。展示会図録を予約しました。

それというのも、図録はいちど完売したらしく、限定500部のみ重刷中と案内されていたからです。すでに予約の受付は始まっていて、もしかすると展示を見ているうちに、売り切れるかもしれません。「何をそんなにあせって」と、やれやれポーズをとる方もいらっしゃるでしょう。でも、人は悔し涙の数だけ強欲になるのです。私も本でなんべん泣いたことか…とくに年々新刊本の逃げ足が速くて…

それはさておき、図録を確保して安心したこともあり、落ち着いてゆっくりと展示を見ることができました。石井桃子は児童文学や絵本の翻訳者・創作者として、戦前昭和から亡くなった平成20年まで、長いあいだ活躍してきた第一人者。(なにしろ101歳で往生)

一般にはA.A.ミルン『くまのプーさん』シリーズや、V.ポター『ピーターラビット』シリーズ、D.ブルーナ『うさこ』(ミッフィー)シリーズの翻訳で知られ、また、『ノンちゃん雲に乗る』などのベストセラー作家でもありました。
とはいえ、私自身は、ジュール・ヴェルヌやマーク・トウェイン、そして何故かピエール・プロブストを読んで育った男の子なので、ちょっと遠巻きに眺めていました。ただ『ノンちゃん』に関しては、小学生のとき、何かの機会で映画を見て、心をゆさぶられた覚えがあります。なにしろ、日本映画史上に残る「美しすぎる母娘」が登場するのですから。

今回の展示は、没後初の回顧展だったこともあり、おいたち・経歴や、作品の案内はもちろん、書斎の再現、稀少な資料や書物の展示、さらにインタビュー映像なども見ることができ、とても充実していました。

この石井桃子展に限らず、没後初の回顧展というのは、遺品整理も兼ねているのでしょうけど、これまでの経験上、見逃せないものが多いという印象です。今後、石井桃子展が全国を巡回するのかどうかは判りませんが、もし機会がありましたら、足を運んでみてはいかがでしょう。

最後に、今回、私のいちばんのお気に入りは、クレール・H・ビショップが物語を書き、クルト・ヴィーゼが絵を描いた、
“The Five Chinese Brothers”。石井桃子は荻窪の自宅一角を開放し、「かつら文庫」と名付け、私設図書室にしていました。そこで、読み聞かせた本のなかで、抜群に人気があったのが、“The Five Chinese Brothers”だったそうです。のちにこの絵本は、『シナの五にんきょうだい』として和訳され、多くの子供たちの目にふれます。
















これは今や貴重な石井桃子訳。現在は川本三郎訳で新刊を入手できます。
『ちびくろさんぼ』と同様に、表記・表現の問題があったためかもしれません。残念なことです。

ちなみに、石井桃子の訃報に接した、阿川佐和子の追悼文によると、休日ともなれば、兄の尚之や近所の仲間と一緒にバスと電車を乗り継いで、「かつら文庫」に通っていたそうです。



---余 談---------------------------------------------------










倉田文人監督で 1955年に公開された映画。
制作・配給は今はなき新東宝。
世田谷と縁のある映画会社で、
いずれ一文書きたい ほど挿話があります。

主人公ノンちゃん役は鰐淵晴子、
その母親役に原節子というキャスティング。

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